■■<ドイツに行ってきて考えた>■■G-016
ホーム技術者の黄昏 2009-1-22記述

■今年10月に機会をいただいて、ドイツの製造メーカとハノーバ・メッセでの工作機械見本市を視察することができた。業務に直接関わらない視察だけの海外出張など初めてのことであり、途中ヴュルツブルグやローテンブルグで観光までしてしまって、こんな優雅な出張でよいのかと心配になるほどだった。
 ハノーバ・メッセ見学は2度目だったから、その巨大さに度肝を抜かれるという程ではないが、その実感を得るために、同一尺度でビッグサイトと比較してみた。やはり巨大だ。今回見学したのは、[EuroBLECH 2008](10/21〜10/25)という板金工作機械の世界最大の見本市で、会場の約半分を使って開催された。工作機械においては板金機械というのは、マイナーな領域である。この展示会の翌週、ビッグサイトでは[JIMTOF 2008](10/30〜11/4)という日本国際工作機械見本市が開催されたが、これは工作機械すべてが対象の展示会である。板金だけで、これだけの規模というのがすごいというのがお分かりいただけると思う。
 

■日本の展示会であれば、現物の展示のほか、色々な説明パネルを掲示しているので、機器の特徴などが分かりやすい。ところがハノーバ・メッセでは、説明パネルの掲示は殆どなく、パンフレットも多くない。基本は、口頭での説明、さらに踏み込んでの商談が主たる目的であるので、商談スペースと、接待のための飲食サービスが充実している。だから私のような購入を目的としていない見学者は相手にされないし、こちらの語学力では相手さにされても困る。だから、的確な見学ができた訳ではないが、板金機械の素人が感想は以下である。
 EuroBLECHで、最も大きなブースで、人を集めていたのは、ドイツのTRUMPF、その次がイタリアのSalvagniniであった。トルンプのレーザ・パンチは10数年前に、会社の部品工場に導入されたときに、その素晴らしさを実感していていたのだが、サルバジーニという会社の機械を見るのは初めてで、特に、そのベンダが非常にユニークな設計で、機構設計者としての目ではあるが、興味深かった。トルンプにしても、アマダにしても、一般のベンダはプレスブレーキ方式であるので、曲げによって、両側がV字状に立ちあがる。実はこれが、ワークのロボットハンドリングを面倒にしている。ロボットに板の端部を持たせて、曲げていくと、これに同期して、ロボットの腕は上方に円弧運動をして保持する。ロボットの自由度と可動範囲を大きくする必要があるので、ロボットシステム全体が大型化してしまう。ところがサルバジーニは片曲げなので、曲げの片側は水平面のままでよい。よって水平面の給材装置からワークをチャックしてX-Y移動するだけで、だいたい加工ができてしまう。大型のパネル状製品の大量生産に適している。
トルンプの新型レーザパンチ サルバジーニのベンダ 同左の曲げ金型
■面白かったのは、視察旅行メンバの板金メーカの社長さんたちだった。目を輝かせて、新しい機械を食い入るように見ている。同行している社長の奥さんが、「まったく、オモチャを欲しがる子供と一緒よ」とのたまった。本気で買うつもりで、見ているのだろう。精密板金で特徴を出すには、技能やノウハウは必要だが、何よりどのような機械を使うかで、生産効率のかなりは決定されるからだ。だからレーザやパンチの速度や、ペンタ゜のストローク速度に関心が強い。と言って、同じ機械を導入したからと言って、同じ能力や同じ加工しかしないのではないようだ。それぞれ機械をベスト・チューニングして、機械の仕様能力や仕様精度以上の力を引き出して、差別化しているメーカさんもいらっしやった。
 リーマン・ブラザースが破綻したのが今年の9月15日だから、この約1ケ月後の視察旅行だった。各メーカとも、ジワジワと影響を受けているようだが、その時は、現時点のようなまっさかさまに墜落という状況ではなかった。 「もし景気がこんなに悪くなると知っていれば、この視察なんか申し込まなかった」と冗談を言いつつ、まだ、ユーロも大分下がったから、設備の買い時だなどと言う余裕があった。事実、この見本市での成約件数は例年より多いとある出展メーカが述べていた。それから2ケ月、状況は悪化し、特に需要拡大を見越したり、客先会社から設備強化を求められたりして、新規設備を導入したメーカが、その償却負担が厳しく大変苦労されているようだ。

■話は変わって、ドイツ国内メーカ数社を見学した感想だが、特に高級自動車メーカが特に印象深かった。また、この2ケ月で自分としての評価はずいぶん変わった。ドイツの製造業の多くが、トヨタ方式を導入しているらしい。同社もその例で、日本からトヨタ方式コンサルタントを招き、常駐でしくみ作りをしているとのこと。ドイツの高級車がトヨタ方式で作られているということに違和感を感じた。ドイツのクラフトマンシップで一台一台手作り的に製造されているから、数千万円もするのかと思っていたら、大違いだった。狭い敷地で、老朽化した建屋、ライン化するには困難な条件の中で、なんとか一本ラインで多車種混流生産をしていた。見学者を驚かせたのが、そのライン速度の遅さだった。作業者の着ているものはバラバラで、はっきり言えばきたない。手早くテキパキやっているようにも見えない。ラインサイドには飲みかけのペットボトルが放置されている。さらには通路に落ちているネジを発見してしまった。そうやって世界の最高級車が出来上がる。このようなパッとしない現場に対して、案内のホワイトカラーは、バリッとした洒落た背広を着こなして、高級者メーカとしての尊大な態度、日本人には作れない車だろうという感じが見え見えだ。この現場とホワイトカラーの落差、これでボトムアップのトヨタ式改善ができるのだろうかと思う。多分、この車を購入する人々の大半は、その車を中途半端なトヨタ式で作って欲しくはないだろう。

■トヨタ式の本質は「必要なものを必要な時に作る」という大量生産の否定と、「なぜ・なぜ」を繰り返す徹底した現場改善にある。その日本の自動車メーカが今、苦しんでいる。数か月前はまだ、「社内は少し天狗になって浮ついた気分が若手に出てきているから、引き締めるのに丁度よい」などと言っていた経営陣も、今はそんなことも言っていられないだろう。今の日本の自動車メーカの現状はどうか。なぜ、アメリカの港湾のそばに大量の新車を野ざらしにしているのか。必要なものを必要なだけ作っていたはずではないのか。20%の減産をすると、納入メーカの生産は半減していまうのか。そんなに中間仕懸りが多かったのか。JITではなかったのか。
 こんなに急激に需要が減退することは想定できなかったのだろうか。本当だろうか。むしろ日本の輸出メーカは、トヨタ式「必要なものを必要なだけ」という原点を捨てたのだと思う。グローバル競争では「規模が全て」だと。結局、「たくさん作れば安くなる」という作りすぎをやってしまったのではないだろうか。いま、複数車種を1本ラインで流しているメーカは少ない。そうやって考えると、2ケ月前に見たあのドイツの自動車会社はどうだろうか。完全な受注生産で、購買者に納車待ちをさせて、ゆっくり作る。こっちの方が「必要なものを必要なだけ」作っている。ゆっくり少量だけ、しかも安く作って、高く売るという戦略だった。たしかに今、高級車が売れなくなっているので、楽なはずはないが、もともとそんなに沢山売れるものではないから、日本車より影響はすくないのではないか。

■そもそも「必要なもの」とは何か。トヨタ式で言う「必要なもの」とは、実は必要なものではなく、マーケティングによって必要と感じるように欲求という需要を喚起していたのでのではないか。




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